株式会社Preferred Networks
コンシューマープロダクト担当VP
福田 昌昭 氏
大学院卒業後、ソニー株式会社でゲーム機、ネットワークサービスの開発を担当。その後、グリー株式会社でソーシャルゲームの企画、開発、運用に従事。事業責任者として事業戦略、事業計画の立案と実行を担当。
現在、株式会社Preferred Networksにてエンターテインメント事業、教育事業、新規事業を統括。コンシューマープロダクト担当VP。
株式会社Preferred Networks 福田 昌昭 氏
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
執行役員・パートナー アジア太平洋地区 先端技術領域パートナー
森 正弥 氏
外資系コンサルティング会社、インターネット企業 執行役員を経て現職。先端技術を活用した新規事業創出、大規模組織マネジメントに従事。世界各国の研究開発を指揮していた経験からDX立案・遂行、AIのビジネス活用に強みを持つ。東京大学 IPC顧問。東北大学 特任教授。日本ディープラーニング協会 顧問
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 森 正弥 氏
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
Telecom, Media & Entertainment | Director
今市 拓郎 氏
メディア・エンターテイメント業界を中心に、事業企画、GTM(Go-to-Market)、組織・人材マネジメント、オペレーション改革などの構想策定から実行支援の経験を豊富に有する。近年はメタバース、Web3領域や先進テクノロジーを用いたエンタメ事業企画を数多く手掛けている。
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 今市 拓郎 氏

2023年、IT業界で話題を一身に集めた「Generative(生成)AI」。エンタテインメントも大きな影響を受けた業界の一つである。8月9日に配信した「バーチャルプロダクション Days + 2023」の中で、デロイト トーマツ コンサルティングのTelecom, Media & Entertainment | Directorである今市拓郎氏がモデレータとなり、「エンターテインメント業界における生成AI活用」と題するセッションを実施し、生成AIを活用するための課題と対策について話し合った。

登壇者は、AI開発で有名なPreferred Networks(東京・千代田)から、コンシューマープロダクト担当VPの福田昌昭氏、デロイト トーマツ コンサルティングの執行役員・パートナー アジア太平洋地区 先端技術領域パートナーである森正弥氏の2人。それぞれの立場から、生成AIへの向き合い方を解説した。

「エンターテイメント業界におけるGenerative AI」の講演風景

ゲーム産業で一足先に生成AI活用が進む

生成AIの主要なサービスには、テキスト生成AIと画像生成AIがある。テキスト生成AIは「ChatGPT」に代表されるサービスで、プログラムコードのデバッグからジョークまで回答できるカバー範囲の広さや会話の自然さが特徴となっている。

画像生成AIは指示されたテキストを解釈して、学習した画像データベースの中から特徴的な画像を組み合わせ、フォトリアルなものから絵画的なものまで幅広く画像を生成するサービスだ。AI本体はオープンソースで公開されているので、さまざまな開発者が派生AIを制作しているほど、人気を集めている。

「これらの生成AIは幅広い業界での活用が望まれているが、ここではエンタテインメント分野における利活用についてフォーカスして議論を深めたい」と今市氏は切り出す。特に、エンタテインメント分野で最も生成AI活用が進んでいるのが、家庭用ゲームを中心とした日本のゲーム業界だ。

ゲーム制作に発生するプログラムコーディング支援、3次元CGの表面の模様(テクスチャ)などを簡単に生成するためのグラフィックスを制作支援といった開発を手助けすることに加え、ゲーム本体にも生成AIが組み込まれ始めている。「ゲームプレイヤーが入力した自然言語に対して反応し、ゲームシナリオを自動的に生成するゲームまで登場している」(今市氏)。

福田 昌昭 氏

業務のワークフロー全体を見直すきっかけに生成AIを使う

「ゲームや映像業界などのエンタテインメント業界に限らず、労働力が足りていない部分に対して新しいソリューションを提供することが、生成AIの大きな役割だ」とPreferred Networksの福田氏は説明する。決まりきったルーティンワーク、作業自体に価値を生み出していない領域などを生成AIに任せることで、人の手をかけずに自動化する。これによって「人材不足を軽減したり、制作プロセスを見直すことでより高い価値を生み出すといった方向に動き出せる」(福田氏)。

生成AIの導入による期待感は確実に高まっている。「しかし、いざ使おうとすると、どの業務に適用すべきか悩む」とデロイト トーマツ コンサルティングの森氏は話す。生成AIを使うためにはワークフローを細かく検証して、この業務を生成AIで変えることができそうだ、といった判断を下す必要がでてくる。「制作業務の中に分け入って、どの部分の仕事を生成AIに任せるのか、という采配を振るえる責任者が必要になる」(森氏)というのだ。局地的に生成AIを利用するということではなく、業務プロセスの見直しと一体化させる重要性を森氏は訴えかける。

実はバーチャルプロダクションを、従来の映像制作のワークフローに導入する際にも似たような問題が発生していた。現行の撮影フローに無理やり割り込ませても、実は効率は下がり、効果が薄くなりがち。プリプロダクションから撮影、ポストプロダクションまでの全工程を組み替えながら最も効果が高くなるように、制作スタッフの仕事のやり方を変えていくことが重要だ。「生成AIも業務全体を見直しながら導入するべきだ」と今市氏は話す。

今市 拓郎 氏

著作権問題は十分に議論する必要がある

生成AIで全世界共通の課題とされているのが著作権問題――と福田氏は話す。今まで人間(クリエイター)が作ってきた成果物(画像)をAIが学習して、そのデータベースを基に再利用する。「(そのデータベースに)記録された画像の権利をどのように守るのか、活用していくのか、という議論が必要不可欠になっている」(福田氏)。

デロイトの森氏も著作権に関する問題点を「難しいポイントだ」と評する。画像生成AIのサーバーがどこで動いているのかが、1つ重要なテーマだと森氏は言う。日本国内の生成AIサーバーで画像を生成しているなら、日本の法律が適用される。国外のサーバーが動いているなら、その国の法律が適用される。「日本の著作権法は、画像生成AIに対して比較的自由度が高い。もし日本国内のユーザーが、日本のサーバーのサービスだと思って画像生成AIを使っていたけれども、実は海外のサーバーだったりしたら、海外の法律に縛られることになる」(森氏)というのだ。

「さらにもう一つ課題がある」と森氏は付け加える。生成AIが学習したデータベースはどのようなデータに基づいているのか。さらにどのような指示(テキスト入力)をして生成した結果なのか――という記録を残しておく必要がある、と指摘する。

仮に生成した結果が、本来の著作権者が作ったものに似ていたとすると、まず生成AIの学習データの中に侵害したとみられる著作権者の作品が含まれていないことを証明しなければならない。もしデータベースの中にその作品が入っていなかったとしても、生成するための指示テキストが、その人の作風に似せようとしていたら著作権侵害となる可能性もある。「つまり、データを使っていないこと。それに、どのような指示文を使ったのかと常に記録しておくような手当てが必要になる」と森氏は、注意すべきポイントを解説した。

森 正弥 氏

日本のコンテンツ産業の発展のためにも生成AIの活用は重要

本セッションの最後に今市氏から「日本のコンテンツ産業がグローバル競争力をUPするために、生成AIのような技術をどのように取り入れていけばいいのか」という問いかけに対して、福田氏、森氏は次のように述べた。

「日本のコンテンツ産業には、テレビアニメ作品のように過去の蓄積を膨大に持っている。個人的には、こうした資産を今後活用すべきではないか、と考えている」と福田氏は話す。というのも、過去の作品を守るために、生成AIのような新しい技術から一歩後ろに下がって、何もしない――という選択肢はないのではないか、というのだ。

世界的な競争が激しくなる中、自分たちは守るためにやらなかったけど、国外の誰かが先に進んでしまってから、後を追うという話になってしまう。「(このタイミングで)そこから逃げるべきではない」と福田氏は考えている。過去の作品を生成AIなどで扱う際に発生する権利があるなら、きちんと対価を支払うべきで、法律を整備しつつ、これから開発するコンテンツについても制作する最初のタイミングから考えておかなければならない課題だと福田氏は説明する。

一方の森氏は、エンタテインメント業界の生産性向上のためにも生成AIは不可欠だと説明する。「ルーティンワークを生成AIに置き換えるのは、これまでの人の仕事を削る方向性。それだけではなくクリエイティビティを伸ばす方向で、生成AIを使っていくべきだ」(森氏)。

例えば、市場調査や分析に生成AIを使うだけではなく、自分のアイデアを生成AIにぶつけてみて、その反応を見ながらブラッシュアップする“壁打ち”に役立つのではないかと説明する。「画像生成AIについても同じで、自分の画像のテイストを変えてみたり、修正を加えるというところに使ってアレンジするのはどうだろうか」(森氏)。生成AIとクリエイター自身が対話を繰り返すことで、創造性が高められるのではないかと、森氏は考えている。

福田 昌昭 氏、森 正弥 氏、今市 拓郎 氏

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