「新世紀エヴァンゲリオン」の碇シンジ役などで知られる声優アーティストの緒方恵美さん(58)が脚本・演出し出演する朗読劇「不思議な少年」が、11月4、5日に長野市で公演される。国内4カ所を巡るツアーの一環(宇都宮公演は既に終了)。ツアーでは、声優の「若手育成」を目的に、公演に先だって現地で朗読劇に参加したい人を募り、公開オーディションで朗読劇への出演者を決める斬新な試みを実践している。長野公演では、3日に声優志望者を対象にワークショップを開き、この参加者を対象にした公開オーディションを4日に行う。選ばれた人は、その日のうちに舞台に立ち、一流の声優と共演できる。ツアー4カ所のうち2カ所に地方都市を選び、若手育成の機会をつくった理由を緒方さんに聞いた。

【普遍的な人間関係を描く「不思議な少年」】

 朗読劇の原作は山下和美さんの漫画「不思議な少年」。時代や場所を越えて存在し、さまざまな人間の行いを見つめる「少年」の役を緒方さんが演じる。「原作は普遍的な人間関係を描いていて、さまざまな年代の人の心に刺さるのではないかと思った」と緒方さん。原作には魔女裁判を題材にした話もあり、「人間はいつの時代も自分がピンチになるとスケープゴートを作り、石を投げる。投げないと今度は自分が投げられる。葛藤する人に『少年』は、どこの時代も同じだ、と話すんです」。朗読劇では、この魔女狩りのストーリーにSNSを登場させ、匿名の誹謗中傷が殺到する現代の「炎上」事例にも触れた。

 朗読劇には、緒方さんが手がける無料の私塾「Team BareboAt(チーム・ベアボート)」(以下TBA)の生徒も出演する。その中には中学生が3人おり、彼らが活躍できるように劇に若者のキャラクターが登場するエピソードを上演話数の中に多めに入れるなどした。長野公演は、宇都宮公演とは異なるストーリーを用意。多数のアニメに出演している有名声優もゲスト出演する。緒方さんは、若い出演者たちに対し「演じ分けるとは、どういうことか。プロの人と絡むと、どうなるのかを学んでほしい」と期待する。また、長野公演には、TBAの1期生で長野県を拠点に活動する声優でタレントの飯野美紗子さん=松本市出身=も出演する。

【新型コロナを経て実感した若手育成の大切さ】

 緒方さんは「俳優とは、人と会話をする仕事。それが芝居の基本」と話す。「日常生活の会話では『この言葉を言おう』と思って言うことはほとんどなく、相手の言葉や目線などを全身で受け取って、さらに自分がそれに返事をしたいと思った時にたまたま出た言葉」。台本がある劇やアニメでも、演じる役と同じ気持ちで会話をする。それが“せりふ”になるという。

 しかし、新型コロナ下では、芝居の基本になる「会話」の機会が減ってしまった。コロナ前、アニメなどの収録現場は、大人数で複数のマイクを共有しながら収録していた。しかし、コロナ下では、感染対策のために1人や少人数での収録になった。さらに、声優の間にアクリル板を置くなどしたため、共演者の声が聞こえない状態にすらなった。この環境は新型コロナの5類移行後も続いており、若手声優にとっては、こうした環境が日常になっている。緒方さんは「若手が先輩と絡む機会もない。芝居の基本の会話ができない若手も出てきている」と危惧する。

 朗読劇「不思議な少年」で緒方さんが演じる「少年」は、多くの出演者と舞台で絡む。「自分と絡むことがどういうことか、若手に体感してほしい」と緒方さん。もちろん、オーディションで選ばれた人にも“絡む”。緒方さんは声優を志す若者たちに「オーディションやワークショップ、舞台の経験を人生の糧にしてほしい」と期待している。

【地方都市での開催の意義】

 朗読劇「不思議な少年」は、9月に宇都宮市で初演し、11月に長野公演、来年1月に大阪公演、3月に横浜公演と続く。緒方さんのように第一線で活躍する声優が、地方都市で公演することは珍しい。緒方さんは、地方公演の理由に「地方都市に住む人に再びエンターテインメントのイベントに足を運んでほしい」という願いを挙げた。「新型コロナで地方の人の足がライブハウスに向かなくなってきた。リモートではなく生で体感するエンターテインメントを再確認してほしい」と語る。

 また、声優を目指す地方在住の人たちを応援する狙いもある。「声優業は基本東京への一極集中になっている。東京に出なければ仕事がない。声優を仕事にしたい人は東京に出なければならないが、コロナで足止めを受けた人も多いはず」と緒方さん。朗読劇を地方で開き、演技や世界観を間近に体感することで刺激を受け、声優志望者が「東京に出るきっかけになればいい」。

【長野とのゆかりも】

 最後に長野県についての思い出を緒方さんに聞いた。「知り合いが長野に住んでいて、その家に遊びに行ったことがあります。そこで、知り合いの家の庭に生えているノビルを初めて食べました」と笑顔。「東京出身なので、ノビルって何か知らなかったのですが、何を食べているのかと聞くと『草を食べている』って言うんです。庭で取った草を食べるということに驚き、食べたらおいしくて、さらにびっくりしました」。また、「野沢菜と鞍掛豆(くらかけまめ)の浸し、信州の純米酒も好きです」とも話してくれた。そんなゆかりがある長野での公演に向け、緒方さんは「皆さんに楽しんでいただけるステージにしたい」と意気込みを語った。

【「不思議な少年」公演情報】

 長野公演のワークショップは長野市内で3日に開き、公開オーディションは4日午後1時からライブハウス「インディア・ライブ・ザ・スカイ」で開演。朗読劇の会場も「インディア・ライブ・ザ・スカイ」で、4日は午後6時半、5日は正午に開演する。公開オーディションは投票権が付いた立見で1人1500円、朗読劇は椅子席が1人5千円、立見席が1人3千円。オーディションと朗読劇はワンドリンク制。

 長野や大阪、横浜での公演やワークショップの情報は、緒方さんが代表を務める「ブリーズアーツ」のホームページ(https://breathearts.jp/wonderboy23/)で確認できる。

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【合わせてお読みください】

■エバ「碇シンジ」の声優・緒方恵美、長野市で朗読イベント 4、5日に公開オーディションと朗読劇

https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2023103101061

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